ここ1年ほど、デスクトップパソコンに関するオープンソースソフトウェア(OSS)のニュースが増えていることにお気づきだろうか。700台分のマイクロソフト「オフィス」を削除してOSSの統合オフィスソフトを採用した企業とか、1000台分のウィンドウズ98 マシンをデスクトップ用リナックスで再生した学校などだ。世界のパソコンシェア第2位の米デルが、リナックスを搭載したパソコンを発売するなどメーカー側の動きも出てきている。
このようなOSSのデスクトップ普及の兆しが見えている背景には、2つのポイントがある。すなわち、デスクトップパソコンの日用品化と、オフィス用の標準文書フォーマットの登場である。
■日用品となったパソコンの課題
日本では、デスクトップパソコンの普及率が70%を超えているという。ちなみに、ここで言うデスクトップパソコンとは、基本ソフト(OS)にマイクロソフトのウィンドウズを搭載したパソコンのように、家庭や一般オフィスでの文書作成業務に使うような汎用小型コンピューターを指す。
多くのユーザーにとって、デスクトップパソコンの用途は、限定的なものだ。ウェブサイトを見たり、メールを読み書きしたり、ワープロや表計算・プレゼンテーションツールで文書を作成したりする程度だろう。企業であれば自社の基幹システムに接続できれば十分であろう。
このような状況になったのは、ここ10年ほどのことだ。インターネットの普及に歩調を合わせるように、特にビジネスシーンでは、1人1台のパソコンは当たり前の風景になった。そして、そのほとんどはウィンドウズとマイクロソフト「オフィス」を搭載している。しかし結果として、企業ではソフトウエアのライセンス料がばかにならない状況がある。
最近はパソコンの出荷台数が横ばいか減少傾向にある。鳴り物入りで発売されたウィンドウズ・ビスタが、デスクトップパソコンの買い換え需要を促進しているという話はあまり聞かない。相当数のユーザーは、ウィンドウズXPや2000、さらには98やMeを使い続けていることになる。
このような状況はいくつかの問題をはらんでいる。マイクロソフトは、新しいOSをリリースすると、数年後には古いバージョンのサポートを打ち切るとしている。ウィンドウズ98とMeのサポートは2006年7月に終了している。ウィンドウズXPのサポートは、 2014年4月で終了する。これ以降、セキュリティー上の問題点が見つかっても、対策プログラムなどは提供されないのだ。
企業のシステム管理部門などでは、古いデスクトップパソコンを保守していくことに限界を認識しているかもしれない。しかし、新しいパソコンに一斉に移行するプロジェクトは、その高いコストのために承認されにくい。
これは、パソコンメーカーやソフトウエアベンダーにとって、不本意な状況である。古いパソコンが使われても利益をもたらさない。デスクトップパソコンが、あまりに日用品となったが、大きな進化を受け入れないという、一種の閉塞状況に捕らわれている。
■OSSデスクトップが閉塞感をうち破る
OSSのデスクトップが注目を集める背景には、このような閉塞感がある。端的に言えばOSSでは、ソフトウエアのライセンス料を支払わなくて済むため、運用コストを削減できる。そのために、既存のデスクトップパソコンを使い続けているユーザーの乗り換え需要を掘り起こせると、考えられている。
今年の2月、ITシステム販売を手がけるアシスト(東京・千代田、ビル・トッテン社長)は、700台分のマイクロソフト・オフィスを削除し、OSSの統合オフィスソフト「オープンオフィス(OpenOffice.org)」に入れ替えた。
また、6月には、松戸市教育委員会が古いウィンドウズ98搭載パソコン約1000台に、リナックスをインストールし直して再生したというニュースもあった。
ITメーカー側もまだ本格的とは言えないまでも、取り組みが増えてきた。デルはウィンドウズの代わりにリナックスを搭載したパソコンの販売を開始している。日本IBMは、中古パソコンに米ノベルの「SuSE Linux」を搭載して販売を開始した。
■標準文書フォーマットがもたらすイノベーション
しかし、OSSデスクトップの導入には、解決すべき課題もある。現状では、あまりにもウィンドウズとマイクロソフト・オフィスが普及しているため、それらと相互運用を行わなければならないのだ。
たとえば、オープンオフィスで文書ファイルを作っても、マイクロソフト・オフィスのファイル形式に変換してから、取引先などに送らなければいけない(相手側もオープンオフィスがインストールされていれば問題ないが)。
また、オープンオフィスでは、マイクロソフト・オフィスのファイルを読み書きする機能を持つものの、文書レイアウトなどの再現性は100%にはならない(ただし、同様の問題は、マイクロソフト・オフィスの複数バージョン間でもあるという)。
そうした問題を解決する統合オフィスソフト用の標準ファイルフォーマットの策定が注目を集めている。口火を切ったのは、オープンオフィス用に開発されたファイルフォーマット「OpenDocument(ODF)」であった。このファイルフォーマットは、2006年 5月にISO(国際標準化機構)の標準フォーマットとして採用された。
従来、オフィスソフトのファイル形式の標準というべき地位は、マイクロソフトががっちりと押さえていた。他の企業は、マイクロソフト・オフィスのファイル形式を、リバースエンジニアリングなどで解析して、対応できるように機能を組み込むしかなかった。
これに対してファイル形式が標準化されると、標準規格として仕様が公開されるため、どこの企業でも自社製品に対応機能を比較的容易に組み込むことができる。特定の企業のソフトウエアに依存することなく、文書ファイルを作成できることにもなる。また、OSSのデスクトップを導入した場合に、文書ファイルの相互運用性を高めることが期待できる。
■各国政府が調達基準にオープン標準を採用
今年4月に総務省は「情報システムに係る政府調達の基本指針」(http://www.soumu.go.jp/s- news/2007/070301_5.html)を公表した。今後政府による調達では、特定企業の製品名を指定して調達するのではなく、オープンな標準に基づいて採用するという。このような動きは、世界各国の政府に広がっている。
そして、これに呼応する形で、オープン標準を採用した統合オフィスソフトの動きがベンダー側でも加速している。IBMは、秋に発売予定のロータスノーツのバージョン8で、ODF対応機能を盛り込む。
マイクロソフトも最新版「オフィス2007」のファイル形式を公開するとともに、自社規格のISO標準化を狙っている。さらに、ODFに対応するマイクロソフト・オフィス用拡張機能を開発するなど、オープンソースプロジェクトを支援している。ジャストシステムは、自社のワープロソフト「一太郎」用にODF対応の追加プログラムを無償配布している。
このように、今後提供される統合オフィスソフトでは、オープン標準なファイルに対応することが当たり前になるだろう。そこでは、特定企業の文書フォーマットではなく、誰でも自由に利用できるフォーマットに基づく文書が頻繁にやり取りされることになる。特に、オープンソースの統合オフィスソフトは、このような文書ファイルを作成・編集する際、導入コストを低減しうる選択肢として注目を集めるだろう。
[2007年6月18日]
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